賃貸物件でトラブルになることが多い「原状回復」の退去費用。3月は引っ越しシーズンで退去件数も増える時期です。
しかし「原状回復の費用はどこまで負担すればいいのか?」などと、悩みを抱えるオーナー様もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、原状回復のトラブル事例と対策について解説します。
原状回復とは、退去時と入居前の状態に戻す返却することです。
次の入居者(借主)が快適に住めるように借主へ課されている義務です。
原状回復義務は、民法621条で以下のように規定されています。
「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。
ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」
つまり、借主がすべて原状回復の義務を負うわけではありませんが、善管注意義務を負っています。
善管注意義務とは、通常期待される程度の注意義務を負うことです。
通常損耗を放置したことにより、状況が悪化した場合は、借主が原状回復費用を負担する必要があります。
一方、民法621条の規定は任意規定のため、民法と異なる特約も有効です。
原状回復の範囲については、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)に定められています。
ガイドラインによると、貸主が負担するものは経年劣化や通常損耗によるものです。
主に貸主が負担するものは、以下の通りです。
一方、善管注意義務違反や故意・過失によるものであれば、借主負担となります。
主に借主が負担するものは、以下の通りです。
(参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」再改訂版)
原状回復にはさまざまな費用が発生します。
そのため、費用負担の範囲について貸主と借主の間でトラブルになるケースが少なくありません。
PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録された賃貸住宅の敷金・原状回復トラブルによる相談件数は、2021年で8,759件となっています。
(参考:独立行政法人・国民生活センター「賃貸住宅の敷金・原状回復トラブル」)
賃貸物件を退去する際にハウスクリーニング代を請求するケースが多くあります。
国土交通省のガイドラインによると、貸主負担となっているものの実際は特約で借主負担となっているケースがほとんどです。
しかし、高額なハウスクリーニング代の請求でトラブルになるケースがあります。
ハウスクリーニングの相場は、ワンルーム・1Kであれば15,000~30,000円程度です。
2DK・2LDKであれば30,000円~70,000円程度です。
部屋が広いほど料金も高くなります。
クロスのわずかな傷であったにもかかわらず、全面張り替えを請求するケースです。
また、タバコのヤニが一部のみ付着していた場合に全面張り替えを請求するケースもあります。
入居者はすべての範囲を元の状態にするわけではありません。
クロスなどは、経年劣化や減価償却が考慮されます。
ただし、クロスは6年以上使用していた場合は、ほとんど価値がなくなります。
原状回復の費用負担については賃貸借契約書に明記し、借主に説明することが大切です。
口頭のみでは、後からトラブルになるケースも少なくありません。
ただし、借主が一方的に不利な特約は、消費者契約法により無効となる可能性があります。
ガイドラインに沿った取り決めが必要です。
入退去時の物件状況を記録することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
この場合、写真で証拠を残しておくと良いでしょう。
今回は、原状回復のトラブル事例と対策について解説しました。
オーナーとしては、国土交通省のガイドラインを確認し、借主が一方的に不利とならないよう原状回復についての取り決めを行いましょう。