2020年以降、多くの人が経験したであろう「テレワーク」は、もはや一時的な働き方ではなくなりました。企業によるリモートワーク制度の恒常化や副業の解禁、フリーランス人口の増加などを背景に、「住まいに仕事の機能を取り込む」流れが急速に進んでいます。
かつて住まい選びといえば「通勤時間をいかに短縮できるか」が大きな軸でした。しかしリモートワークが普及した今では、都心へのアクセスよりも「在宅で快適に働ける環境」を優先する人が増えています。特にマンション購入を検討する層の間では、間取りや共用施設に“仕事を意識した設計”を求める声が急増しているのです。
従来のマンションは「寝る・食べる・くつろぐ」を中心とした空間設計が主流でした。しかし近年では、「働く」を意識した設計に進化しています。
代表的な例がワークスペースの確保です。
LDKの一角にデスクスペースを備え付けたり、洋室の一部をガラスの仕切りで区切って簡易的な書斎にしたりと、仕事専用の空間を確保できる設計が人気を集めています。仕事専用の空間では収納スペースを工夫して、プリンターや書類を見えないように収めるなど、生活と仕事を両立できる工夫も多く見られます。
さらに防音性能の強化も需要が高まっています。
オンライン会議が増えた今、外の生活音や家族の声が響かない設計は、快適な在宅ワークを支える重要な要素なのです。
マンション全体としても、テレワーク需要に対応した共用施設の整備が進んでいます。従来のマンション共用部といえばラウンジやフィットネスルームが中心でしたが、最近はコワーキングスペースや会議室を備える物件が増加。
高速Wi-Fiやコピー機、ドリンクサービスなどが充実しており、外のカフェやレンタルオフィスに行かなくてもマンション内で仕事を完結できる環境が整えられています。また、入居者同士の交流を促す仕組みとして、ビジネス系のイベントやセミナーを開催する物件も登場しており、単なる住まいを超えた“コミュニティ”としての価値も高まっています。

テレワークの普及によって注目を集めているのが、郊外マンションです。通勤が毎日ではなくなったことで「職場に近い都心」という条件が必須ではなくなり、広さや静けさを優先する人が増えています。
郊外であれば同じ予算でも都心より広い部屋を購入できるため、書斎やワークルームを設けやすいというメリットがあります。さらに緑が多い環境や、子育てに適した立地も人気の理由。結果として、「働きやすさと暮らしやすさを両立できる郊外マンション」が新たな選択肢として台頭しているのです。
テレワーク需要は、実需だけでなく投資用マンション市場にも波及しています。賃貸物件でも「在宅ワーク向けの間取り」や「共用ワークスペースの有無」は入居者が物件を選ぶ際の重要な要素となりつつあります。
これにより、投資家にとっても「ワークスペースを確保できる物件」を持つことが競争力につながる時代になりました。特に単身者や共働き世帯向けのコンパクトマンションでは、リビングと寝室に加えて“もう一部屋”をワーク用に活用できる物件のニーズが高まっています。今後のマンション市場において、テレワーク対応の有無は資産価値を左右する大きな指標になるでしょう。
もちろん、すべてが順風満帆というわけではありません。テレワークに対応した設計はコストがかかり、購入価格が上昇する要因にもなっています。また、すべての人がリモートワークに完全移行しているわけではないため、将来的に働き方が再び変化する可能性も視野に入れる必要があります。
それでも、働き方と住まいの関係が大きく変わったことは確かです。特に若い世代にとっては「職場に近い住まい」よりも「在宅で快適に働ける住まい」を持つことの価値が高まっており、この流れはしばらく続くと考えられます。

テレワークの普及は、住まい選びに新しい視点をもたらしました。これからのマンション購入では、従来の「立地」や「価格」だけでなく、「仕事ができる環境かどうか」が重要な判断基準となっています。
間取りの工夫や共用スペースの充実、さらには郊外マンションの再評価など、住まいのあり方は大きく進化しつつあります。今後、テレワークが一層定着していく中で、“働ける住まい”は新しい常識となり、マンション市場の大きな潮流を形作っていくでしょう。
