これまでの不動産投資は、どこまでいっても「利回り」が最大の指標でした。どれだけ安く仕入れて、どれだけ高く貸せるか。空室率や管理費率をいかに抑えるか。確かに、それらの数字は投資判断において欠かせない要素です。
しかし2025年、少しずつその価値観に変化が起きています。不動産投資においても、環境への配慮や社会的責任=サステナビリティが問われるようになってきたのです。
今、ESG投資(環境・社会・ガバナンス)という言葉が世界的に浸透しています。これは株式市場だけでなく、実物資産である不動産の世界にも着実に波及しています。資産としての収益性はもちろん、「持続可能な社会にどう貢献するか」も、評価軸のひとつになってきました。
背景には、いくつかの大きな流れがあります。
まずは、エネルギーコストの高騰と気候変動です。住宅やビルにおいて、エネルギー効率の悪い物件は入居者の光熱費負担が大きく、長期的に選ばれにくくなっています。逆に、断熱性や太陽光発電、LED照明などを備えた高効率の建物は、入居者満足度が高く、長期入居や高稼働に繋がる可能性が高いです。
また、企業の脱炭素方針とテナントニーズの変化も見逃せません。とくにオフィスビルや店舗物件では、「自社のカーボンフットプリントを減らす」という方針のもと、環境配慮型の建物を選ぶ企業が増えています。これは、一般の居住者だけでなく、法人テナントにとっても大きな選定基準となっているのです。
さらに、2022年の不動産証券化協会による「ESGガイドライン」や、地方自治体の「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」支援など、公的支援の制度も拡充されています。不動産を通じて社会貢献する流れは、確実に広がってきています。
とはいえ、「何から手をつければいいのか分からない」という投資家も多いはず。いきなり全館太陽光発電を導入したり、建て替えたりするのは現実的ではありません。
サステナブル不動産への第一歩は、小さな改善の積み重ねから始まります。たとえば、照明をLEDに交換するだけでも電力消費は大きく減らせます。さらに、断熱シートや内窓の設置など、比較的コストを抑えてエネルギー効率を高める方法は多くあります。
管理面でも、共用部分の節電・節水管理や、ゴミ分別の徹底、エコな清掃方法の導入など、運用方法の工夫でサステナビリティを高めることができます。
こうした小さな改善を積み重ねることで、「環境にやさしい物件」として入居者から選ばれる可能性が高まり、結果的に空室率の低下や修繕コストの抑制にもつながるのです。

サステナブルな物件は、いわゆる「差別化戦略」としても有効です。周囲に同じような築年数・家賃帯の物件が並ぶなかで、「環境配慮型」「安心・安全に配慮した暮らし」「省エネ設備完備」といった明確なメッセージを出すことで、物件に独自性を持たせることができます。
また、今後注目されているのがグリーンリース(環境配慮条項付き賃貸借契約)です。これは、オーナーと入居者の双方が「環境負荷低減」に合意し、省エネ行動を共同で推進していく仕組みです。大企業ではすでに導入が進んでいますが、個人オーナーの間でも少しずつ広がりを見せています。
こうした取り組みは単なる見せかけではなく、投資家自身の姿勢を社会に示すことでもあります。持続可能な物件運営に取り組むことは、入居者からの信頼につながり、結果的に資産価値の維持向上にも貢献します。
最近では不動産業界においても、ESGスコアやグリーン認証が注目を集めています。
環境性能を評価する「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」や「CASBEE(建築環境総合性能評価システム)」で一定ランク以上の認証を取得している物件は金融機関からの評価が高まり、グリーンローンや優遇金利の対象になることもあるのです。将来的には、不動産の売却時における付加価値としても機能していくと考えられています。
また、投資信託や不動産ファンドの世界ではESG評価が導入されており、「どんな物件に投資しているか」が投資家から厳しく見られています。個人投資家にとっても、こうした視点を取り入れることは将来的に自分のポートフォリオの価値を高めるための一歩になるでしょう。

「どうすれば利回りを伸ばせるか?」という問いに加えて、今後は「どうすれば社会と共に持続可能な資産運用ができるか?」が重要になります。不動産投資は建物という形ある資産を持つからこそ、社会や環境への影響も大きいのです。
少しずつの改善であっても、それが10年、20年先に大きな価値の違いとなって表れます。短期的な利回りだけでなく、長期的に選ばれ続ける物件・投資家になるために。今こそ、不動産とサステナビリティの接点を真剣に見つめ直す時期ではないでしょうか。
