IHIは3月28日、東京都江東区に所有する賃貸用不動産を売却すると発表しました。
2回に分けて売却を進める予定で、2022年3月期に約280億円、25年3月期に約103億円の売却益をその他収益(国際会計基準)として計上するということです。
IHIでは、主力の航空機エンジン事業で新型コロナウイルス感染拡大の影響が長引いています。
(参考:日本経済新聞「IHI、賃貸用の土地売却益383億円 2度に分け計上」)
大手企業の不動産売却はIHIだけではありません。2020年以降、大手企業が本社ビルや所有する不動産を売却する動きが高まっています。
エイチ・アイ・エス(HIS)は、東京ワールドゲート 神谷町トラストタワー4・5階にある本社フロアをSMFLみらいパートナーズに対して約324億円で譲渡すると発表しています。
(参考:.travelvoice「HIS、虎ノ門の本社社屋を325億円で譲渡・賃借へ、手元資金の確保」)
また、新型コロナウイルス感染拡大により、2020年10月期は250億3,700万円の赤字を計上しています。
2002年の上場以来、初めて純利益が赤字に転落しました。
(参考:東京商工リサーチ「HIS 新型コロナで通期の売上高がほぼ半減し、上場来初の赤字転落」)
旅行やホテル事業に加え、運営する長崎県佐世保市のリゾート施設「ハウステンボス」も厳しい状況が続いています。
旅行業界大手では、JTBも本社ビルなど、自社ビル2棟を売却した模様です。
紙幣印刷機の製造などを手掛ける小森コーポレーションは、工場用敷地約5万6000平方メートルを売却し、31億円の譲渡益を上げたと報じられています。
エイチ・ツー・オーリテイリングは、阪急阪神百貨店が保有する大阪市内の配送センターの土地を売却すると発表しました。
譲渡は2023年12月下旬の予定で、約33億円の売却益を計上する見通しです。
一方、業績とは関係なく本社を売却する動きも出てきています。
報道によると、国内最大手の広告代理店・電通グループは、東京都港区東新橋の本社ビルを約3,000億円で売却した模様です。
報道によると、エイベックス株式会社は、2017年10月に竣工した本社ビルを730億円で売却したと報じられています。
東京商工リサーチの調べでは、2021年度(2021年4月-2022年3月)に不動産売却を開示した東証1部、2部上場企業は、87社(前年度76社)となり、3年連続で増加しています。
80社台に上ったのは2008年度以来、13年ぶりとなりました。
不動産の譲渡益と譲渡損の差額は、プラス5,267億9,200万円で3年連続の増加です。
(参考:東京商工リサーチ「上場企業の不動産売却87社に増加、13年ぶりの80社超【2021年度】」)
新型コロナウイルス感染拡大の影響で業績悪化により、資金確保のため不動産を売却する大手企業が増えています。
売却後は、賃貸契約を結ぶリースバックの事例が多くあります。
例えば、パナソニックは、2013年にパナソニック東京汐留ビルを売却してリースバック、武田薬品は、2019年に大阪本社ビルを売却してリースバックを活用するケースです。
テレワークの普及により事務所の分散を解消するため、本社への集約化が進んでいます。
一方で、社員の多様な働き方を促進するため、サテライトオフィスのニーズが高まっています。
サテライトオフィスは、通勤時間の削減、ワークライフバランスの向上、生産性向上などのさまざまなメリットがあります。
郊外型のサテライトオフィスでは、リモートワークとオフィスのハイブリッドな働き方が実現可能です。
不動産の売却資金で、会社の成長のため新たな投資資金に充てる場合もあります。
大手企業が不動産を売却する一方で、オフィスビルが資産運用として注目されています。
オフィスビルは、立地条件が良ければ賃料が下がりにくく、居住用物件より高い賃料を得ることが可能です。
また、建築基準法の要件が緩やかで、テナントの賃貸期間が長いため、安定した賃料収入が期待できます。
さらに相続税法上、オフィスビル用地は「貸家建付地」となり、評価額が下がるので節税対策にもなるでしょう。
このように大手企業のオフィスビル売却が加速する一方で、資産運用としてもメリットがあります。